理学療法士の自費開業は、なぜ「問題視」されるのか──線を引いてから、看板を作る
2026/8/4
この記事で分かること
読了時間:約 10 分
- ✓ 自費サロンでやっているのは「理学療法士が、民間療法を提供している」それだけ。それ以上に見せようとするから話がおかしくなる
- ✓ 分かれ目は「診療の補助かどうか」。該当しない業務なら医師の指示は不要(厚労省通知)だが、それは理学療法でもない
- ✓ 問題視されているのは開業そのものではなく、資格を看板にして枠外のサービスを売る曖昧さ
- ✓ 私は「あくまでも民間療法」と先に言い、初回に5点を説明して同意を得てから施術に入る
- ✓ 「原因は◯◯です」と言い切らない。断定するかわりに、動きの変化を体験してもらう
開業を調べていると、必ずぶつかる壁
セラピスト向けのある媒体で、こんな一文を読みました。
理学療法士等が自費にて治療院や整体院として事業を行うケースが増えております。これらの行為が問題視されております。
自費サロンを5年やっている私は、まさにここに名指しされている側です。
最初に正直なことを言うと、この指摘はもっともだと思っています。腹も立ちませんでした。むしろ、開業を考えている人ほど、この「問題視」の中身を先に知っておいたほうがいい。曖昧なまま始めると、あとで自分が困るからです。
この記事では、なぜ問題視されるのかを整理して、そのうえで私自身がどこに線を引いているかを公開します。
📌 はじめにお断りしておきます。私は弁護士ではありません。ここに書くのは、私が調べて理解した範囲と、私の店で実際にやっている運用です。ご自身のケースの法的な判断は、必ず専門家や行政の窓口にご確認ください。
論点1:分かれ目は「診療の補助かどうか」
理学療法士及び作業療法士法では、理学療法は医師の指示のもとで行うものと定められています。
ただし、ここには続きがあります。厚生労働省は2013年に「理学療法士の名称の使用等について」という通知を出していて、そこにはこう書かれています。
診療の補助に該当しない業務の場合、医師の指示は不要である
通知では、介護予防事業などで身体に障害のない人に転倒防止の指導をするような業務が、その例として挙げられています。
つまり、線はここで引かれています。
- 診療の補助に当たること(医療としてのリハビリ)→ 医師の指示が必要。これが理学療法
- 診療の補助に当たらないこと(健康増進、予防、コンディショニング)→ 医師の指示は不要。ただし、それは理学療法ではない
私が自費サロンでやっていることは後者です。だから医師の指示は要りません。そのかわり、理学療法でもない。資格の上に成り立ってはいますが、法律が定義する理学療法そのものではないということです。
スポーツ現場を例にすると分かりやすい
この線引きは、スポーツの現場に置き換えるとはっきりします。
チームドクターが選手を診察して、その指示のもとで受傷後の可動域訓練を行う。これは診療の補助に当たり得ます。医師の指示があり、医療として成立しています。
一方、怪我をしていない選手のコンディショニングやパフォーマンス向上の指導は、医師がいてもいなくても、そもそも診療の補助ではありません。だから指示は要らないし、それは理学療法とも呼びません。
分かれ目は「医師がいるかどうか」ではなく、「やっていることが診療の補助かどうか」です。ここを取り違えると、話が噛み合わなくなります。
そして自費サロンは、後者と同じ側にあります。
論点2:名称独占であって、業務独占ではない
もうひとつ、混同されやすいところがあります。
理学療法士は名称独占の資格です。資格がない人が「理学療法士」と名乗ることはできません。しかし、体に触れて動きを整えたり、運動を指導したりする行為そのものを、理学療法士だけが独占しているわけではありません。
だから整体師やトレーナーが体を診ることは違法ではないし、逆に言えば、理学療法士が自費で開業する場合も「理学療法士の知識を活かした民間療法」という位置づけになるわけです。
もっとはっきり言います。私が自宅でやっている整体は、法律上の位置づけとしては、町中にあるリラクゼーションサロンと何も変わりません。国家資格を持っているから一段上のことができる、ということはない。看板に「理学療法士」と書いてあっても、提供しているサービスの枠は同じです。
ここを認めるところから始めないと、話が始まらないと思っています。
自分が何者かと聞かれたら、私はこう答えます。理学療法士が、民間療法を提供している。それだけです。
それ以上に見せようとするから、話がおかしくなる。
では、何が違うのか。
資格そのものではなく、危険を見分けて医療につなげられるかどうかだと思います。この人はうちで診ていい人なのか、今すぐ病院に行ってもらうべき人なのか。その判断ができることが、病院に15年いた意味です。技術の差より先に、ここが違う。
資格は、看板ではなく土台。そう理解しています。
論点3:本当に問題視されているのは何か
ここまで書いてきて分かるとおり、批判されているのは「開業すること」そのものではないと思っています。問題にされているのは、線を曖昧にしたまま資格を売り物にする構造です。
具体的には、こういうことです。
- 「理学療法士が施術します」と大きく打ち出して、医療行為が受けられるかのように思わせる
- 医師の診断も指示もないのに、痛みの原因を断定して施術する
- 資格の信頼を集客に使いながら、提供しているのは資格の枠外のサービス
これをやられると、資格そのものの信頼が削れていきます。同じ資格を持つ人たちが心配するのは、当然だと思います。
では、「理学療法士」と名乗らなければいいのか
ここまで読んで、こう思った人がいるかもしれません。資格を看板にするのが問題なら、名乗らなければいいのではないか。そもそも自費でやるなら、名乗ってはいけないのではないか。
調べたうえで書きます。結論から言うと、有資格者が名乗ること自体には問題ありません。
理学療法士及び作業療法士法の第17条は、こう定めています。
理学療法士でない者は、理学療法士という名称又は機能療法士その他理学療法士にまぎらわしい名称を使用してはならない
禁止されているのは「理学療法士でない者」です。違反した場合は30万円以下の罰金と定められています。つまり名称独占とは、資格を持っていない人の使用を禁じる制度であって、持っている人の使用を制限するものではありません。むしろ、有資格者を守るための規定です。
さらに、先ほどの厚生労働省の通知には、こうも書かれています。
理学療法以外の業務を行うときであっても、「理学療法士」という名称を使用することは何ら問題ない
私の解釈ではなく、国の通知にそう書いてあります。自費サロンでやっているのが理学療法でないとしても、理学療法士と名乗ること自体は問題ない、ということです。
だから私は、チラシにもホームページにも「理学療法士(国家資格)」と書いています。隠すことでも、恥じることでもない。
問題は、名乗るかどうかではなく、名乗り方のほうにあります。
資格名を出すこと自体は合法でも、その出し方によって「ここでは医療行為が受けられる」「病院と同じことをしてもらえる」と思わせてしまえば、それは誤認です。医療機関でないところが「治療」「診療」を想起させる表現を使えないのも、根は同じ理屈です。
私のチラシには「理学療法士(国家資格)・修士(保健学)」と書いてあります。ただし、同じ紙面に必ずこう書き添えています。
当サロンは医療機関ではなく、健康保険適用外(自費)のリハビリコンディショニングサービスです
セットにする。これが答えだと思っています。資格を出すなら、同時に枠も出す。片方だけ出すから、誤認が生まれます。
それに、「名乗らなければいい」という発想そのものが、少し逆を向いていると思います。名乗らずにぼかせば、たしかに指摘はされにくくなる。でもそれは、線を引いたことにはなりません。お客様から見れば、あなたが何者で、何ができて、何ができないのかが、かえって分からなくなります。
隠すのではなく、両方言う。そのほうが、自分もお客様も守れます。
なお、この論点はいま動いています。日本理学療法士協会は2026年7月に「理学療法士の名称の適正な使用について」という文書を公表し、「Physio(フィジオ)」「Physical Therapy(フィジカルセラピー)」「〇〇理学療法士」といった名称についても、使い方によっては名称独占の対象となり得るという見解を示しました。想定されているのは有資格者以外による使用ですが、業界がこの問題に神経を使っている状況は、これから開業する側も知っておいたほうがいいと思います。
では、私はどうしているか
ここからが本題です。批判の中身が分かったなら、次は自分の運用をそれに合わせるだけです。
あくまでも民間療法だと、先に言う
私が自費サロンで提供しているのは、あくまでも民間療法です。国家資格を持っていても、そこは変わりません。
これを曖昧にしたまま始めると、看板の言葉も、お客様への説明も、ホームページの表現も、すべて危うくなります。逆に、ここさえはっきりさせておけば、あとの判断はほとんど自動的に決まります。
初回に、5つのことを説明して同意をいただく
病院では、医師の診断を経た方だけを診ていました。自費サロンは違います。診断を受けていない方が、いきなり来られます。
なので私は初回に必ず「病院に通院していますか」「お薬は飲んでいますか」を確認したうえで、次の5点を説明し、同意をいただいてから施術に入ります。
- 当サロンは医療機関ではないこと
- 提供しているのは、あくまでも民間療法であること
- 理学療法の提供はできないこと
- 状態を見て施術が難しいと判断した場合は、お受けできないこと
- 病院の受診をお勧めする場合があること
自分とお客様の両方を守るための線引きです。面倒に見えるかもしれませんが、ここを飛ばすほうがずっと怖い。
なお、医療機関の外で最初に人を診る立場になるということは、Red Flag の除外が自分の仕事になるということでもあります。ここは開業前に必ず整理しておいてください。
「原因は◯◯です」と言い切らない
これが、理学療法士にとっていちばん引っかかるところだと思います。
原因を特定して伝えるのは、診断に近づいてしまいます。だから私は「あなたの痛みの原因は◯◯です」という言い方をしません。
でも、私たちは原因を探す訓練を受けてきた人間です。それを言えないなら、何をすればいいのか。
私の答えはこうです。疾患名で説明するのをやめて、動きの変化で共有する。
「この動きで症状が出ますね」 「ここをこう変えると、さっきより楽ですね」
お客様自身に確かめてもらう形にしています。言葉で断定するかわりに、体験してもらう。病院を出てから、いちばん考え方を変えたところです。
そしてこれは、逃げでも妥協でもないと思っています。医師が疾患を診断するのに対して、私たちが評価するのは運動機能障害です。ゴールがそもそも違う。自費の現場では、その違いが法的な線引きとしても効いてくる、というだけの話です。
広告の言葉も、そこから決まる
先日、折込チラシを印刷会社に入稿したら、審査で差し戻されました。指摘されたのは、この4語です。
- 根本
- 特定
- 原因を見つける
- 原因を特定
私のチラシには「原因を『動き』から見つけ」「根本からサポートします」「丁寧な検査で原因を特定」と書いてありました。全部書き直して、「動きなどから状態を確認して」「丁寧な状態確認」に変えました。
指摘されたときは一瞬ひるみましたが、考えてみれば当然でした。原因を断定しないと決めたのに、チラシには断定が残っていた。運用と広告が食い違っていただけです。
「治る」「改善」と書けない理由も、突きつめれば同じところから来ています。
それでも、病院に通いながら来る人がいる
ここまで、できないことばかり書いてきました。医師の指示がなければ理学療法ではない。原因は断定できない。法的な枠はリラクゼーションサロンと同じ。
では、なぜこの仕事が成り立つのか。
私の店に来られる方の多くは、病院に行ったあとの人です。診てもらって、画像も撮って、「異常なし」と言われた。あるいは「年のせいですね」「様子を見ましょう」と言われた。それでも痛い。だから来られます。
これは、病院が悪いという話ではありません。
保険のリハビリは、疾患名がないと始められません。始まっても期限があります。一回の時間も決まっています。制度が守備範囲を決めていて、その範囲の中では、病院はきちんと仕事をしています。
問題は、守備範囲の外にも人がいることです。
- 画像に写らない痛みを抱えている人
- リハビリの期限が来て「終わりです」と言われた人
- 手術も薬も必要ないと言われたが、生活は不便なままの人
- そもそも自分の体に何が起きているのか、説明されていない人
この人たちは、医療の失敗ではありません。制度の設計上、そこに居場所がないだけです。私が保険リハビリを出た理由も、突きつめればここにありました(なぜ保険リハを飛び出して、自費の道を選んだのか)。
そして、この構造が分かると、自分の仕事の輪郭もはっきりします。
私たちは医療の代わりではありません。医療が守備範囲を終えたところ、あるいはまだ入っていないところで、動きの問題に付き合う仕事です。
だからこそ、目の前の人が実は医療の守備範囲にいると分かったときは、すぐにそちらへ戻す。線を引くというのは、断ることではなく、その人がいるべき場所を見極めることでもあります。
これから開業する人へ
伝えたいことは、ひとつだけです。
線を引いてから、看板を作ってください。
順番が逆になると、あとで全部やり直しになります。私はチラシで一度やり直しました。看板、ホームページ、メニュー表、説明の言葉——全部が線引きの上に乗っています。
そして、線を引くことは、あなたの仕事を小さくしません。むしろ、どこまでが自分の領分かがはっきりするほど、目の前の人にできることは増えていきます。「治します」と言えなくても、動きが変わったことは一緒に確かめられます。それで十分に喜ばれます。
問題視されている、という事実からは目を逸らさないほうがいい。そのうえで、自分は違うと言える運用を作る。それが、資格を持って自費でやる人間の責任だと思っています。
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