Physio Kimura Academy 新人〜若手セラピストのための、臨床推論と開業の一次情報
開業・独立 シリーズ:セラピスト開業の教科書 #33

自宅ひとり整体は、なぜ潰れにくいのか──そして、なぜ伸びにくいのか

2026/9/26

自宅ひとり整体は、なぜ潰れにくいのか──そして、なぜ伸びにくいのか

この記事で分かること

読了時間:約 5 分

  • ✓ 潰れにくさの正体は「低い損益分岐点」「現金が先に入る」「撤退コストが低い」の3つ
  • ✓ 私の固定費は月約1万円。損益分岐点は事業の経費だけなら月15人、給料込みでも月48人
  • ✓ ただし「潰れにくい」は「儲かる」ではない。体が唯一の設備で、売上は時間で頭打ち。回数券は前受金

先日、「ファクタリング」という言葉を調べました。まだ入金されていない請求書を業者に買い取ってもらい、手数料を払って早めに現金にする仕組みです。

調べ終えて気づいたのは、自分の商売には一生縁がない、ということでした。施術が終われば、その場でお金が入る。待つべき入金が無い。売掛金が無いのだから、売るものも無い。

当たり前のことですが、ここに自宅ひとり整体という商売の性質が詰まっていると思ったので、今回はその話を書きます。

潰れにくさの正体は「低い損益分岐点」

自宅でひとりで営む整体には、次の3つがありません。

  • 人件費
  • 家賃
  • 仕入れ

商売の固定費の大部分を占めるものが、最初から無い。

店舗を借りてスタッフを雇えば、毎月数十万円の固定費を売上で超えるまでは赤字です。私の場合、毎月必ず出ていくのは光熱費・消耗品・サーバー代・会計ソフトで約1万円。ここに集客の広告費が月10〜15万円乗りますが、これは減らそうと思えば減らせるお金です(内訳はひとり開業のお金のリアルに書きました)。

損益分岐点を計算すると、事業の経費だけなら月15人ほどの施術で届きます。自分の給料25万円を含めても月48人。1日6枠、週5日の4割です(計算の仕方は自費の価格、どう決めた?)。

自宅ひとり整体が潰れにくい3つの理由:固定費約1万円/月・入金は当日・撤退コストほぼ0・損益分岐点は月15人
潰れにくさは、要するに耐久力のことです

損益分岐点が低いということは、集客に失敗した月も、閑散期も、持ちこたえられる期間が長いということです。正直に書くと、私がこの線に届いたのは開業から半年後でした。それでも潰れなかったのは、耐久力があったからです。

現金は「先に」入ってくる

もうひとつ見落とされがちなのが、お金の流れる順番です。

一般的な商売は「仕入れる → 売る → 入金を待つ」の順に動きます。その間、先にお金が出ていくので、つなぎの運転資金が要る。ファクタリングのような仕組みがあるのは、この入金待ちの間に資金が尽きる会社があるからです。

倒産した会社の4割近くは、直前の決算が黒字でした(東京商工リサーチの2022年の調査)。帳簿の上では黒字でも、支払いの日にお金が無ければ終わり。いわゆる黒字倒産です。

自宅整体はどうか。仕入れも在庫も無く、施術当日に入金されます。回数券が売れれば、サービスを提供する前に現金が入る。お金の流れが、一般的な商売と逆向きなのです。

これが、自宅ひとり整体が潰れにくい2つ目の理由です。

やめるときも、傷が浅い

3つ目は撤退コストの低さです。

内装工事の借入も、テナントの違約金も、原状回復費も無い。仮にこの商売をやめることになっても、致命傷にはなりにくい。撤退の基準そのものは撤退基準は「損益分岐点を3ヶ月」に書いています。

始めやすく、続けやすく、やめやすい。守りという点では、これほど強いモデルはそう無いと思います。

ただし、「潰れにくい」は「儲かる」ではない

ここからが本題かもしれません。この強さは、そのまま弱さの裏返しです。

潰れにくい(守り)と伸びにくい(天井)の対比
守りの強さと、攻めの話は別

ひとつ目は、自分の体が唯一の設備であること。固定費がほぼ無いのは、施術者本人以外に生産設備が無いからです。自分が倒れれば、売上はその日からゼロになります。

ふたつ目は、売上の上限が時間で決まること。1日に施術できる人数には限りがあります。単価を上げるか、時間あたりの価値を上げない限り、売上は頭打ちになる。潰れにくい一方で、大きくは伸びにくい。

みっつ目は、回数券のお金はまだ自分のものではないこと。回数券の代金は、会計の上では「前受金」です。まだ提供していないサービスの代金を預かっているにすぎません。これを売上と勘違いして使い込むと、返金が必要になったときに困ります。

自分の店だけで使える回数券は、資金決済法でいう「自家型前払式支払手段」にあたります。毎年3月末と9月末の時点で未使用の残高が1,000万円を超えると、財務局への届出と、残高の半分以上の供託(銀行などとの保全契約で代えることもできます)が必要になります。ひとり整体で普通は超えない額ですが、残高がいくらあるかは把握しておきたい。私は、自作の予約システムにお客様ごとの回数券の残数を持たせていて、来店のたびに残数が1つ減る仕組みにしています。制度の細かい点は、税理士や行政書士に確認してください。

守りが強いから、攻めを考えられる

自宅ひとり整体は、潰れにくい。これは間違いありません。

ただ、それは「失敗しても死なない」という意味であって、「放っておいても儲かる」という意味ではない。

私はこの構造を、むしろ前向きに捉えています。守りが強いからこそ、攻めに時間を使える。すぐに潰れる心配が無いから、臨床を磨くことにも、発信にも、次の事業の準備にも腰を据えて取り組める。

では、時間という天井をどう超えるのか。それは次の記事で書きました。 時間の天井の答えは、体を使わない売上を横に足すこと

まとめ

  • 潰れにくさの正体は、低い損益分岐点・現金が先に入る・撤退コストが低い、の3つ
  • 私の固定費は月約1万円。損益分岐点は事業の経費だけなら月15人、給料込みで月48人
  • 「潰れにくい」は「儲かる」ではない。体が唯一の設備、時間の天井、回数券は前受金
  • 守りが強いからこそ、攻めに時間を使える

「自分の場合、損益分岐点は月何人になるんだろう」と気になったら—— ▶ 開業を目指すセラピストへ(無料LINE相談)