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開業・独立 シリーズ:セラピスト開業の教科書 #28

退職、どう切り出す?──「今の現場どうするの?」に、答えを持って辞めた話

2026/8/19

退職、どう切り出す?──「今の現場どうするの?」に、答えを持って辞めた話

この記事で分かること

読了時間:約 4 分

  • 結論①:私は退職日の半年前に職場へ伝えた。「今の現場どうするの?」という問いには「後輩を教育します」──現場が回る答えをセットで持っていく
  • 結論②:円満退職の核心は、本音を伝えること。「自分でやりたい」という前向きな理由には、給与や待遇の引き止めカードが効かない
  • 結論③:3月31日に退職し、7月19日に開業。引き継ぎは後輩への申し送りで完了し、辞める怖さは──正直、特に感じなかった

「今の現場、どうするの?」

退職の意思を伝えた私に、職場から返ってきた言葉です。

責められたわけではありません。5年間そこで働いて、担当の患者さんを持ち、日々の現場が私を含めて回っている。その現場をどうするのか──辞める側が必ず聞かれる、当然の問いです。

私はこう答えました。「後輩を教育します」。

開業を考え始めた人が最初にぶつかる壁は、集客でも資金でもなく、たぶんこれです。いつ、どう切り出すか。引き止められたらどうするか。この記事では、私が実際にどう辞めたかを、時系列でそのまま書きます。

半年前に伝える──「早すぎる」が円満をつくる

私が職場に退職の意思を伝えたのは、退職日の半年前でした。

法律の話をすれば、退職は2週間前の申し出で成立します。就業規則で「1ヶ月前まで」と定めている職場が多いでしょう。半年前というのは、それらに比べればずいぶん早い。

でも、担当患者さんを持つ仕事は、書類上の引き継ぎでは終わりません。私の代わりに担当する後輩が、患者さんとの関係を築き、評価の視点を引き継ぎ、独り立ちする──そこまでが引き継ぎです。人が育つ時間は、1ヶ月では買えません。

半年という時間は、「今の現場どうするの?」という問いへの、私なりの答えでもありました。辞意だけを置いていくのではなく、現場が回り続ける計画をセットで持っていく。引き止める・引き止めないの綱引きになる前に、職場の一番の心配ごとに先に答えてしまう。振り返って、円満に辞められた一番の実務的な理由はこれだったと思います。

本音を伝えると、反対できなくなる

もうひとつ、伝え方の核心がこれです。

退職理由を、給与や人間関係や労働時間の話にしないこと。私は「自分でやりたい」という本音を、そのまま伝えました。

理由は単純です。条件への不満を理由にすると、職場は条件で引き止めることができます。給与を上げる、配置を変える、休みを調整する──カウンターオファーの余地を、こちらが作ってしまうのです。そして条件で引き止められた退職は、たいてい数ヶ月後にもう一度こじれます。

「自分でやりたい」には、対案がありません。職場が用意できるどんな条件も、「自分でやる」の代わりにはならないからです。反対のしようがない理由を伝えることは、駆け引きではなく、むしろ一番誠実な伝え方だと私は思います。本音なのですから。

このシリーズで何度か書いてきた通り、私の開業理由は家族との時間と、保険の枠の外で身体機能の予防に関わりたいという考えでした。その本音を隠して辞めるほうが、よほど不義理だったと今でも思います。

引き継ぎの実務──後輩への申し送り

担当していた患者さんの引き継ぎは、後輩の理学療法士への申し送りで行いました。半年の猶予があったので、書類を渡して終わりではなく、実際の場面を共有しながら引き継ぐ時間が取れました。

ここで、ひとつだけ一般論を書き添えます。

退職時にやってはいけないことの筆頭は、患者さんの「引き抜き」です。辞めたあとの開業先を患者さんに伝えて誘うことは、円満退職を一瞬で壊します。職場で出会った患者さんは、職場の患者さんです。この線を越えなければ、辞めたあとも古巣と良い関係が続きます。越えれば、業界は狭いので、悪い噂のほうが先に開業地へ届きます。

3月31日退職、7月19日開業

私は2022年3月31日に退職し、同じ年の7月19日に自宅サロンを開業しました。間は3ヶ月半です。

この期間で、開業の手続き自宅の施術スペースづくりを進めました。退職と開業を同日にせず、間を空けたことは結果的に正解でした。勤めながらの開業準備は、思っているより進みません。

最後に、よく聞かれる質問に正直に答えます。「5年勤めた職場を辞めるの、怖くなかったですか?」

正直に言うと、怖さは特に感じませんでした。強がりではなく、当時の記憶を探しても、怖かった瞬間が見当たらないのです。半年かけて伝え、現場への答えを用意し、本音を話し、引き継ぎを終えて辞める──やるべきことを先に終えていたからか、辞める日はただの区切りの日でした。

開業の記事は「勇気を出せ」という話になりがちです。でも私の実感は逆で、段取りを先に済ませると、勇気はそれほど要りません。怖さの正体の大部分は、やっていない段取りのことだからです。

まとめ──辞める段取りは3つだけ

  • 早く伝える。私は半年前。現場が回る計画(後輩の教育)をセットで持っていく
  • 本音を伝える。「自分でやりたい」には、引き止めの対案が出せない
  • 線を守る。引き継ぎは申し送りで丁寧に、患者さんの引き抜きはしない

職場によって就業規則も人間関係も違うので、この通りにいかない場合もあると思います。それでも「現場への答えを先に用意する」「条件の話にすり替えない」の2つは、どの職場でも通用する原則だと考えています。

開業を迷っている段階の方は、先にこちらの記事をどうぞ。辞めると決めたあなたの、最初の一歩がこの記事です。

よくある質問

Q. 退職はどれくらい前に伝えるべきですか?

A. 法律上は2週間前、就業規則では1ヶ月前と定める職場が多いですが、担当患者さんを持つ仕事は事情が違います。引き継ぎ相手の教育まで含めて考えると、余裕があるほど円満に近づきます。私は半年前に伝えました。半年は長く感じるかもしれませんが、後輩を教育する時間として使い切りました。

Q. 引き止められたらどうすればいいですか?

A. 給与や待遇の引き止めは、条件に不満があって辞める人に効くカードです。「自分でやりたい」という前向きな本音には、職場は対案を出せません。退職理由を条件の話にすり替えず、本音をそのまま伝えることが、結果的に一番引き止められない伝え方でした。

Q. 担当している患者さんには、どう伝えればいいですか?

A. 私は後輩の理学療法士への申し送りという形で引き継ぎました。ひとつ一般論として補足すると、退職時に患者さんを開業先へ誘う「引き抜き」は、円満退職を壊す最大の地雷です。職場で出会った患者さんは職場の患者さん──この線を守ることが、辞めたあとの関係も守ります。