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開業・独立 シリーズ:セラピスト開業の教科書 #29

いくら貯めたら、辞めていい?──生活費1年分と、ウーバーイーツの話

2026/8/19

いくら貯めたら、辞めていい?──生活費1年分と、ウーバーイーツの話

この記事で分かること

読了時間:約 4 分

  • 結論①:後輩に「いくら貯めたら辞めていいですか」と聞かれたら、答えはひとつ──生活費1年分。開業費用(事業のお金)とは別勘定で用意する
  • 結論②:私の実際の数字。3月末に退職、7月に開業、売上で生活費を賄えるようになったのは開業の半年後。その冬はウーバーイーツの配達で谷を埋めた──退職から谷を抜けるまで、ほぼ1年かかった
  • 結論③:開業しても谷はすぐには終わらない。貯金という守りに日銭の選択肢を足す。辞める前の家計の段取りは3つ──ライフプラン作成・家計管理・保険の見直し

「いくら貯めたら、辞めていいですか?」

もし後輩にそう聞かれたら、私の答えはひとつです。生活費1年分。

開業資金の情報はたくさんあります。ベッドがいくら、内装がいくら、広告がいくら。私も開業費用の記事で、必須用品は約2万円だったと書きました。

でも、開業を考える人が本当に知りたいお金の話は、たぶんそっちではありません。辞めた日から、売上で家族を養えるようになる日までの間、何で食べていくのか──この「谷間の生活費」の話を、開業情報はほとんど書きません。私の実際の数字を書きます。

実際のタイムライン──谷は、ほぼ1年続いた

私は2022年3月31日に退職し、7月19日に自宅サロンを開業しました。売上で生活費を賄えるようになったのは、開業から半年後です。

ここで、開業を考えている方に一番伝えたいことを書きます。谷は、開業した日に終わりません。

開業には準備期間があり、開業した日から予約が埋まるわけではなく、広告費は売上より先に出ていきます。「退職から開業まで」の谷と、「開業から軌道まで」の谷。二段階あるのです。私の場合、退職から谷を抜けるまで、ほぼ1年かかりました。

辞める前に用意していたのは、生活費1年分でした。結果だけ見れば、備えはほぼ計算通りに使われたことになります。もし「3ヶ月分あればなんとかなるだろう」で辞めていたら、サロンが軌道に乗る前に、家計が先に音を上げていたはずです。

開業後の冬、配達バッグを背負った──ウーバーイーツの話

もうひとつ、正直に書きます。開業から半年ほど経った冬──2023年1月から3月までの3ヶ月間、私はウーバーイーツの配達をしていました。

「開業したのに?」と思われるかもしれません。そうです、開業した後の話です。サロンの売上が生活費に届くかどうか、まだ月によって波があった時期。貯金を取り崩すだけの冬にするか、配達で谷を埋めるか──私は埋めるほうを選びました。

理学療法士が、資格と関係のない配達で日銭を稼ぐ。抵抗がある人もいると思います。でも実際にやってみて分かったのは、貯金が減っていくだけの日々と、少額でも入ってくるお金がある日々は、家計の数字以上に別物だということです。

貯金は「守り」です。ただし守りは、減っていく一方だと心の余裕も一緒に削っていきます。日銭は金額こそ小さくても、「いざとなれば稼げる」という感覚を家計に足してくれます。生活費1年分という備えが「守りの深さ」だとしたら、日銭の選択肢は「谷の底が抜けない保険」でした。

ここで「理学療法士の非常勤で働けば、時給は配達よりいいのでは?」と思った方へ。その通りで、時給だけなら資格を使うほうが合理的です。でも非常勤はシフトで時間を売る働き方なので、売った時間にはサロンの予約を受けられません。育てたいのはサロンなのに、サロンの予約を断って時給を守るのは本末転倒です。ウーバーイーツは逆で、配達中にサロンの予約が入ったら、すぐ業務をやめてサロンの人間に戻れます。日銭の仕事を選ぶ条件は時給の高さではなく、本業をいつでも最優先にできること──谷を埋める仕事が本業の成長を邪魔したら、谷から出られなくなるからです。

そしてこの3ヶ月を最後に、配達バッグを背負うことはなくなりました。サロンの売上が、谷を抜けたからです。

辞める前にやった、家計の段取り3つ

お金の備えは、貯金額だけの話ではありません。私が退職前に家計側でやったことは3つです。

1つ目は、ライフプランの作成です。この先の教育費や住居費まで含めて、わが家の生活費が月いくらで、年いくらなのかを実額で出しました。「生活費1年分」という目標額は、この作業をして初めて具体的な金額になります。逆に言えば、ライフプランを作っていない段階の「いくら貯めれば」は、根拠のない丸い数字でしかありません。

2つ目は、家計管理です。何にいくら使っているかが見えていない家計は、収入が不安定になった時に締めどころが分かりません。収入が会社員の給料からサロンの売上に変わるというのは、毎月同じ額が入る家計から、月によって違う額が入る家計への切り替えです。管理の習慣は、辞める前に作っておくものでした。

3つ目は、保険の見直しです。会社員でなくなると、傷病手当金のような会社員の保障の前提が変わります。保障が必要なところと、過剰だったところを、収入が変わる前に整理しました。固定費の見直しは、そのまま「生活費1年分」のハードルを下げることにもつながります。

まとめ──答えは「生活費1年分」。ただし自分の実額で

  • 貯める目安は生活費1年分。私の実体験では、退職から谷を抜けるまでほぼ1年かかった
  • 開業費用(事業のお金)と生活費(家計のお金)は別勘定。混ぜると両方の判断が濁る
  • 貯金という守りに、日銭の選択肢を足す。私の場合はウーバーイーツだった
  • 辞める前の段取りは、ライフプラン作成・家計管理・保険の見直しの3つ

最後にひとつだけ。「1年分」は私の答えであって、魔法の数字ではありません。家族構成も固定費も違えば、あなたの1年分は私の1年分と違う金額です。だからこの記事の本当の結論は、「まずライフプランを作って、自分の1年分がいくらなのかを知る」──ここから始めてください。

退職の切り出し方については前回の記事を、開業してからのお金の現実は一人開業のお金のリアルをどうぞ。

よくある質問

Q. 生活費1年分とは、具体的にいくらですか?

A. 金額は家庭によって全く違うので、月々の生活費(住居費・食費・保険・教育費などの実額)を書き出して12倍してください。大事なのは「なんとなく300万」のような丸い数字でなく、自分の家計の実額から逆算することです。私はライフプランを作成してこの数字を出しました。

Q. 開業のための資金は、生活費とは別に必要ですか?

A. 別に必要です。ただし思うより少なくて済みます。私の場合、施術に最低限必要な用品は約2万円、リフォームや備品まで含めた総額で約77万円でした。生活費の口座と事業の口座を分けて考えることが、家計設計の第一歩です。

Q. 収入が途切れる期間が不安です。どうしていましたか?

A. 私は開業後の冬(2023年1月〜3月)の3ヶ月間、ウーバーイーツの配達で家計の谷を埋めました。資格とは関係のない仕事ですが、貯金が減っていくだけの期間に「入ってくるお金」があることの意味は、金額以上に大きかったです。谷は開業した日に終わらないので、日銭の選択肢を持っておくことをおすすめします。