Physio Kimura Academy
施術室の商売論 シリーズ:施術室の商売論 #4

初めて、「これは、うちと同じだ」と思った

2026/6/20

初めて、「これは、うちと同じだ」と思った

この記事で分かること

読了時間:約 3 分

  • 美容師は「あの人に切ってほしい」の指名で成り立つ=整体と同じ型の仲間
  • 「増やせない」のに不安がない。指名は囲い込みでなく、選ばれ続けること
  • 増やせないことは、弱点である前に「誰にも奪われない」ということ

これまで、軽貨物、エアコンと、いろんな商売の話を書いてきた。結果に値段がつくのか、人に値段がつくのか。そんな物差しで、自分とは違う商売ばかりを眺めてきた。

でも、今回は違った。

美容師さんが、施術に来てくれた。立ちっぱなし、腕は上げっぱなし、肩と首はがちがち。職業病ですね、と笑っていた。施術しながら、いつものように商売の話になって——聞きながら、ずっと「これは、うちだ」と思っていた。

「あの人に切ってほしい」——同じ型の仲間

これまでの商売とは、明らかに何かが違った。

美容師さんも、「あの人に切ってほしい」で、お客さんが来る。指名がある。

同じ髪型でも、誰が切るかで、お客さんの満足がまるで変わる。だから、簡単には他の人に代われない。新しいスタッフに任せたら、「前の人がよかった」と離れていく人もいる。

これ、まるごと、うちと同じだった。

うちも、「あの先生に診てほしい」で来てくださる。同じ施術でも、誰がやるかが、効いてくる。人に値段がついている商売。だから、増やしにくい。

軽貨物やエアコンを「違う商売」として見てきたけれど、ここで初めて、同じ型の仲間に出会った気がした。人に値段がつき、指名で成り立ち、だからこそ大きくしにくい。同じ宿命を背負っている人が、目の前にいた。

増やせないことは、誰にも奪われないということ

でも、その方は、ずっと続けていた。

何年も、同じお客さんの髪を切り続けている。子どもだった子が、大人になっても通ってくる。引っ越しても、わざわざ戻ってきて切る人がいる、と。

「増やせない」商売なのに、ちっとも不安そうじゃなかった。

それを聞いて、はっとした。

僕はずっと、人に値段がつく商売を、「大きくできない弱点のある商売」として見ていた。増やせない、天井が低い、と。

でも、この人は違う見方をしていた。「あの人じゃなきゃ」と思われること。簡単に代われないこと。それは、弱点である前に、誰にも奪われない、ということでもあった。

指名されるというのは、囲い込まれているのではなく、選ばれ続けている、ということだ。大きくはできないけれど、その代わり、いちばん大事なお客さんを、誰にも取られない。

髪は伸びる、痛みは消える

ひとつだけ、うちと違うところもあった。

髪は、伸びる。だから、放っておいても、お客さんはまた来る。一ヶ月、二ヶ月で、自然に「次」が来る。

うちは、そうはいかない。痛みが取れたら、来る理由が、いったん消える。だから、「また来たい」と思ってもらう関係を、こちらから育てないといけない。同じ「人に値段がつく」商売でも、お客さんが戻ってくる仕組みは、少し違っていた。

それでも——大きくはしにくいけれど、長く続く。一人ひとりと、深く長く。

その商売の形を、ちっとも卑下していない人を見て、自分の商売を、少し見直した。

——増やせないことは、もしかしたら、弱点ではないのかもしれない。

そう思いはじめた頃、施術室に、それを真正面から突きつけてくる人が、やってきた。