Physio Kimura Academy
総論 新人PTのための入門 シリーズ:新人PTのための入門 #10

患者さんと決める「ゴール設定」— 目標欄に「疼痛軽減」と書いて終わらせない

2026/6/10

患者さんと決める「ゴール設定」— 目標欄に「疼痛軽減」と書いて終わらせない

この記事で分かること

読了時間:約 5 分

  • ゴールは「痛みを取る」ではなく「生活に何が戻るか」で決める
  • 「生活の言葉で聞く→評価とつなぐ→長期と短期→数字と期限」の4ステップ
  • ゴールは一度決めて終わりではなく、再評価とセットで育てるもの

目標欄に「疼痛軽減」と書いて、手が止まったことはありませんか

計画書の目標欄を前に、フリーズする。とりあえず「疼痛軽減」「ADL向上」と書いてはみたものの、これが本当にこの人のゴールなのか、自信がない——。

新人の頃の私の目標欄は、ほぼ全員「疼痛軽減」でした。でも、あるとき患者さんに言われたんです。「痛みはいいから、孫を抱けるようになりたいのよ」と。

ゴール設定が難しいのは、書き方を知らないからではありません。「誰のゴールか」が、まだ患者さんとそろっていないだけなんです。

このアカデミーの軸は「臨床の”なぜ”を言語化する力」です(→アカデミーの歩き方)。ゴール設定は「なぜこの治療をするのか」の終着点を言葉にする作業。つまり、臨床推論そのものです。

なぜ「ゴール」が治療を決めるのか

ゴール設定は、書類仕事ではありません。治療の方位磁針です。理由は3つあります。

  • 治療の優先順位が決まる:「孫を抱く」がゴールなら、しゃがみ込みと持ち上げ動作が最優先。「散歩を再開する」なら歩行耐久性。ゴールが変われば、今日やることが変わります
  • 患者さんのやる気が変わる:「痛みを減らしましょう」より「来月、お孫さんを抱けるようにしましょう」のほうが、自主トレは続きます。納得が行動を変えるのは、説明(→説明の仕方)と同じ理屈です
  • 良くなったかを判定できる:ゴールが曖昧だと、再評価(→再評価の回し方)で「何と比べるか」が決まりません。ゴールは再評価の物差しでもあります
ゴール設定の型:①生活の言葉で聞く ②評価とつなぐ ③長期と短期に分ける ④数字と期限を入れる
ゴール設定は4ステップ。出発点は「生活の言葉」。

ゴール設定の型 —— 4つのステップ

① 生活の言葉で聞く

「目標は何ですか?」と聞くと、患者さんは困ってしまいます。聞き方を変えましょう。

「痛みが楽になったら、まず何がしたいですか?」 「今いちばん困っているのは、どの場面ですか?」

返ってくるのは「孫を抱きたい」「畑に出たい」「正座でお茶を飲みたい」——こうした生活の言葉こそが、ゴールの原石です。問診(→問診の型)で拾った困りごとが、そのまま使えます。

② 評価とつなぐ — 「できる」と「したい」の間を埋める

次に、その願いと今の体の間に、何が足りないかを評価で確かめます。

孫を抱きたい(願い)← しゃがんで10kgを持ち上げる動作(課題)← 膝の曲がりと痛み、体幹の安定性(今の壁)

願いを動作に翻訳し、動作を機能に分解する。ここがセラピストの専門性です。ゴール設定とは、患者さんの願いを、あなたの評価で裏打ちする作業なのです。

③ 長期と短期に分ける

  • 長期ゴール=生活の願いそのもの。「3ヶ月後、孫を抱き上げられる」
  • 短期ゴール=そこへ向かう今月の一歩。「2週間後、手すりなしでしゃがめる」

短期ゴールは、再評価で使うコンパラブルサイン(その人の変化を確かめる目印の動き)と重ねると、毎回の施術で進み具合を患者さんと一緒に確認できます。

④ 数字と期限を入れる

「歩けるようになる」ではなく「2週間後に、連続15分歩ける」。数字と期限が入ると、ゴールは願望から約束に変わります。

  • いつまでに(期限)
  • 何が(動作・場面)
  • どれくらい(回数・時間・距離・痛みの程度)

3つがそろっているか、計画書を書いたら指差し確認してみてください。

言い換え例 ——「疼痛軽減」を生活の言葉に翻訳する

セラピスト目線のゴールと生活の言葉のゴールの対比
同じ患者さんでも、ゴールの言葉で治療の景色が変わる。
疼痛軽減           → 朝の着替えが、顔をしかめずにできる
ADL向上            → 浴槽を、手すりを使ってまたげる
歩行能力の改善     → 信号が変わる前に、横断歩道を渡りきれる
可動域の拡大       → 棚の2段目に、湯のみを戻せる
筋力強化           → 買い物袋を持って、3階まで上がれる

左の言葉は間違いではありません。でも右の言葉にした瞬間、患者さんの表情が変わります。ゴールが自分のものになるからです。

やってはいけないゴール設定・3つ

  • セラピスト目線だけで決める:「膝の曲がりを130度に」は手段であって、ゴールではありません。患者さんが望む生活から逆算しましょう
  • 高すぎる・曖昧すぎる:「フルマラソン復帰」をいきなり短期ゴールにしない。遠い願いは長期に置き、手前に届く一歩を刻む。届かないゴールは、患者さんの自信を削ります
  • 一度決めて見直さない:体が変われば、ゴールも変わります。再評価のたびに「このゴールのままでいいか」を患者さんと確認する。ゴールは石碑ではなく、一緒に育てる苗です

まとめ

ゴール設定は、①生活の言葉で聞く → ②評価とつなぐ → ③長期と短期に分ける → ④数字と期限を入れる、の4ステップ。

そして何より——ゴールは患者さんの中にすでにあります。 あなたの仕事はゼロから作文することではなく、問診で原石を拾い、評価で裏打ちし、数字で形にすること。「疼痛軽減」の4文字の向こうにある「孫を抱きたい」を、聞き出せるセラピストになりましょう。