Physio Kimura Academy
施術室の商売論 シリーズ:施術室の商売論 #6

「増やせない」は、「誰にも奪われない」だった

2026/6/20

「増やせない」は、「誰にも奪われない」だった

この記事で分かること

読了時間:約 3 分

  • 整体は「感じてもらう前に効かないと終わる」=意味より結果・即時の商売
  • 増やせないことは、弱点である前に「誰にも奪われない」ということ
  • 属人性は天井であると同時に堀だった。増やすより、続くを選んでいい

他人の商売を、たくさん見てきた。

ハンドメイド作家さん、軽貨物ドライバーさん、エアコンの職人さん、美容師さん、プロゴルファーの方。施術室で、いろんな商売を見せてもらった。結果に値段がつくのか、人に値段がつくのか。増やせるのか、増やせないのか。比べながら、自分の商売の輪郭を、ずっとなぞってきた。

そろそろ、その物差しを、自分自身に向けてみようと思う。

整体は、感じてもらう前に、効かないと終わる

いちばん最初に来てくれた、ハンドメイド作家さんのことを思い出す。

あの人の商品は、まとって、眺めて、背景の物語を感じてもらうものだった。買ったあとも、作り手の想いが、使うたびに立ち上がる。物そのものより、意味を売っている。余韻が、長い。

うちは、逆だ。

整体の価値は、今この場で、痛みが消えること。終わった瞬間に、ほぼ完結する。物語や想いを感じてもらう前に、まず体が変わらないと、話にならない。意味より、結果。即時で、その場で答えが出る。

ハンドメイドは「感じてもらえないと売れない」。 整体は「感じてもらう前に、効かないと終わる」。 順序が、逆だった。

「増やせない」は、「誰にも奪われない」だった

軽貨物の人は、人を増やして、運ぶ量を増やせた。エアコンの人は、その間で、結果に値段をつけながら、人にも少し値段がついていた。

うちは、増やせない。「あの先生に診てほしい」で来てくださるから、誰かに代わってもらうと、来てくれた理由そのものが、抜けてしまう。ずっと、それを弱点だと思っていた。天井が低い、と。

でも、美容師さんが、見方を変えてくれた。「あの人じゃなきゃ」と思われること。簡単に代われないこと。それは、弱点である前に、誰にも奪われない、ということでもあった。

そしてプロゴルファーの方が、いちばん厳しい世界から教えてくれた。結果が数字で世界に晒される、逃げ場のない世界。あの過酷さに比べたら——うちは、うまくいかない日があっても、関係そのものは消えない。同じ方が、また来てくださる。続いていく。

属人性は、天井であると同時に、堀だった

並べてみて、やっと分かった。

僕がずっと「弱点」だと思っていたもの——自分が商品で、増やせなくて、人に値段がついていること。それは、確かに天井だった。大きくはできない。でも、同じものが、堀でもあった。簡単には真似されない。誰にも奪われない。いちばん大事なお客さんを、誰にも取られない。

自分が商品の商売は、「増やす」より「続く」を選んでいい。 そして「続く」の鍵は、人に値段がついていること。 増やせない弱点に見えた属人性こそ、いちばんの資産だった。

——属人性は、天井であると同時に、堀だった。

他人の商売をたくさん見て、最後に自分に戻ってきて、そう思えるようになった。施術室には、これからも、いろんな商売が、体の疲れと一緒に運ばれてくるだろう。それを聞きながら、僕はまた、自分の商売の輪郭を、なぞっていくのだと思う。

このシリーズは、ここで終わりにします。読んでくれて、ありがとうございました。