Physio Kimura Academy
各論 臨床推論の組み立て方

坐骨神経痛の評価と鑑別 — 「ヘルニアのせい」で止まらないために

2026/6/13

坐骨神経痛の評価と鑑別 — 「ヘルニアのせい」で止まらないために

この記事で分かること

読了時間:約 4 分

  • 坐骨神経痛は症状名。神経根由来・殿部組織由来・血管由来を切り分ける
  • 分布・性質・増悪因子の問診と、感覚・筋力・反射の神経学的検査
  • 「画像にヘルニアがある」は犯人確定ではない(無症状でも珍しくない)

「坐骨神経痛って言われました」から始まる

「病院で坐骨神経痛って言われました」——お尻から脚にかけての痛みやしびれを訴える患者さんは、たいていこの言葉と一緒にやって来ます。

新人の頃の私は、この言葉を診断名として受け取っていました。けれど坐骨神経痛は「頭痛」や「腹痛」と同じ、症状の名前です。「お尻から脚に痛みがありますね」と言っているだけで、どこが原因かは、まだ何も言っていない

ここを取り違えると、評価が「原因探し」ではなく「坐骨神経痛の施術メニュー」になってしまいます。この記事では、お尻から脚への症状を前にしたとき、私がどう切り分けているかを整理します。

まず安全確認から(いつもの順序)

シリーズの読者にはお馴染みの順序です。脚の症状を伴う腰殿部痛では、機能評価の前に必ず通します。

  • サドル麻痺・膀胱直腸障害・進行する両側の筋力低下 → 馬尾症候群の疑い。即受診
  • がん既往・夜間痛・発熱・外傷腰痛の Red Flag の質問セットへ

ここが通ってから、原因の切り分けに進みます。

3つの由来に切り分ける

由来典型的なパターン
神経根由来(ヘルニア・狭窄などによる L4〜S1 の圧迫/炎症)皮膚分節(デルマトーム)に沿った帯状の痛み・しびれ、咳・くしゃみで響く、感覚低下・筋力低下・反射の変化を伴いうる
殿部の組織由来(殿筋群・深部外旋筋・仙腸関節などからの関連痛)分布が地図状であいまい、「だいたいこの辺」と手のひらで示す、神経学的所見はそろわない、特定の姿勢・圧迫で再現
血管由来(末梢動脈疾患による跛行)歩くとふくらはぎが締め付けられるように痛み、立ち止まるだけで(前屈しなくても)数分で回復、足の冷感・色調変化

この3つで対応はまったく変わります。神経根なら神経への負荷管理と経過観察の設計、殿部組織なら該当組織への力学的アプローチ、血管なら運動療法の前に医師への相談です。

切り分けの実際

① 問診:分布・性質・増悪因子

  • 「痛い場所を、指でなぞってもらえますか?」——線で示せば神経根、手のひらでぼんやり示せば関連痛のことが多い。示し方そのものが所見です
  • 「咳やくしゃみで脚に響きますか?」(神経根への圧負荷)
  • 「歩くと出て、止まると治まりますか? 治まるとき、前かがみにならなくても治まりますか?」——立ち止まるだけで回復するなら血管性を、前屈や座位で楽になるなら脊柱管狭窄(神経性跛行)を考えます

② 神経学的検査:感覚・筋力・反射の3点セット

神経根由来を疑うなら、裏を取るのはこの3つです。

  • 感覚:L4(下腿内側)・L5(足背〜母趾)・S1(足底〜小趾側)の左右差
  • 筋力:L4(足関節背屈)・L5(母趾伸展)・S1(つま先立ち)
  • 反射:膝蓋腱反射(L4)・アキレス腱反射(S1)

3つがそろって同じ高位を指すほど、神経根の確からしさが上がります。1つも引っかからないのに「神経が圧迫されてますね」と説明するのは、根拠が先に崩れています。

③ 誘発テスト:SLR は「万能」ではない

SLR(下肢伸展挙上)テストは有名ですが、陽性=ヘルニアの確定でも、陰性=除外でもありません。感度は比較的高い一方で特異度は低い——つまり「陰性なら神経根由来の可能性は下がるが、陽性でも他の原因がありうる」くらいの位置づけで使います。殿部の筋を伸ばしても痛む角度域があるからです。

テストは単品で白黒つけるものではなく、問診+神経学的検査+誘発テストの「重なり」で確からしさを上げていく——シリーズで繰り返してきた、いつもの型です。

画像の罠:「ヘルニアがある」≠「ヘルニアが犯人」

ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。

症状のない人の腰を MRI で撮っても、椎間板の膨隆やヘルニアは珍しくありません。年齢が上がるほどその割合は増えることが、複数の画像研究で繰り返し示されています。つまり「画像にヘルニアが写っている」ことと「そのヘルニアが今の症状の犯人である」ことの間には、距離があります。

画像所見と、目の前の身体所見(分布・神経学的検査・誘発テスト)が一致して初めて、犯人として扱う。私がこれを骨身に染みて学んだ失敗——MRI のヘルニアを犯人と決めつけ、本当の原因を見誤った症例は修士の臨床記録 Vol.7に書きました。

患者さんが「ヘルニアだから治らない」と信じ込んでいる場合は、画像と痛みの関係を安心につながる言葉で説明し直すことも私たちの仕事です(このタイプの思い込みについてはYellow Flag の記事で扱っています)。

まとめと次の一歩

  • 坐骨神経痛は症状名。「どこ由来か」を決めるのが評価の仕事
  • 神経根・殿部組織・血管の3つに切り分ける。入口は「指でなぞれるか」「咳で響くか」「止まるだけで治まるか」
  • 神経根を疑ったら感覚・筋力・反射の3点セットで裏を取る。SLR 単品で白黒つけない
  • 画像のヘルニアは犯人確定ではない。身体所見との一致で判断する

評価の組み立て全体を順序から確認したい方は評価ナビゲーター(無料)へ。痛みの種類の見分け方は痛みのメカニズム分類もあわせてどうぞ。