Physio Kimura Academy
総論 臨床推論の組み立て方 シリーズ:臨床推論の判断ポイント #1

痛みのメカニズム分類 — 侵害受容性・神経障害性・中枢性感作と「3ヶ月の壁」

2026/6/8

痛みのメカニズム分類 — 侵害受容性・神経障害性・中枢性感作と「3ヶ月の壁」

この記事で分かること

読了時間:約 5 分

  • 痛みを3つのメカニズム(侵害受容性/神経障害性/中枢性感作)で分ける
  • 「経過3ヶ月」が急性パスと慢性パスを分ける臨界点
  • 慢性痛では睡眠・気分・破局的思考の評価が必須になる

「どこが痛いか」より「なぜ痛いか」

Red Flag の除外で安全を確認したら、次の判断ポイントは痛みのメカニズムです。

私が若い頃にできていなかったのは、まさにここでした。痛む場所に手技を当てることばかり考え、「この痛みは、そもそもどういう仕組みで生まれているのか」を問えていなかった。同じ「腰が痛い」でも、メカニズムが違えば打つ手は180度変わります。

痛みは大きく3つのメカニズムに分けて考えます。

痛みのメカニズム3分類:侵害受容性・神経障害性・中枢性感作
痛みは「侵害受容性・神経障害性・中枢性感作」の3つで考える。

3つのメカニズム

① 侵害受容性疼痛(Nociceptive)

組織への機械的・化学的ストレスを、侵害受容器が拾って生じる「素直な痛み」です。

  • 特徴:特定の動作・荷重で再現し、その刺激をやめると引く。痛みの場所と原因組織が概ね一致する
  • 臨床の手がかり:動作との明確な関連(コンパラブルサイン)、安静で軽快、局所的
  • ここは、私たちが最も介入しやすい領域です

② 神経障害性疼痛(Neuropathic)

神経そのものの損傷・圧迫・易刺激性によって生じる痛みです。

  • 特徴:ピリピリ・ジンジン・電気が走るような質。デルマトームに沿った放散、しびれ・感覚異常を伴う
  • 臨床の手がかり:神経学的所見(感覚・筋力・反射)、神経の機械的感受性(SLR・スランプ等)
  • 「揉む」発想ではなく、神経の通り道・滑走性から考える領域です

③ 中枢性感作(Central Sensitization)

末梢の組織損傷の程度に見合わない強さ・広がり・持続で痛む状態。神経系の感度そのものが上がっています。

  • 特徴:痛みが広範囲・左右non-anatomical、軽い刺激で強い痛み(アロディニア)、天候・ストレス・睡眠で変動
  • 臨床の手がかり:原因組織と痛みの不一致、過敏性の亢進、心理社会的因子の関与
  • ここで局所を揉んだり安静を勧めたりすると、かえって感作を進めることがあります

背景にある考え方は、Gifford の「成熟した生命体モデル(Mature Organism Model)」——痛みは組織からの Input だけでなく、脳での Processing と Output の産物だという視点です。詳しくは修士の臨床記録Vol.8(恐怖という亡霊)で具体例を書いています。

「3ヶ月の壁」— 急性と慢性で戦略が変わる

メカニズムを見極めるうえで、私が最も重視する分岐点が経過3ヶ月です。

  • 3ヶ月未満(急性パス):多くは侵害受容性。組織治癒の過程に沿って、動作との関連を評価し、方向性で介入する(→方向性・部位・荷重で分ける
  • 3ヶ月以上(慢性パス):中枢性感作が関与してくる確率が上がる。局所アプローチ(湿布・安静・マッサージ)の効果が頭打ちになりやすい

慢性化した痛みに急性期と同じ発想で関わり続けるのが、若手のうちにやりがちな失敗です。私もそうでした。「効かないからもっと強く揉む」は、慢性痛では逆効果になりえます。

慢性パスでは、心理社会的因子を必ず診る

中枢性感作が疑われるとき、評価から外してはいけないのが心理社会的因子です。

  • 睡眠:眠れているか(睡眠不足は痛みの感度を上げる)
  • 気分:抑うつ・不安の有無
  • 破局的思考:「この痛みは一生治らない」「動いたら壊れる」という思考

これらは Red Flag ではなく Yellow Flag——危険信号ではなく、私たちが扱うべき治療対象です。両者を取り違えると、患者さんをいたずらに怖がらせ、痛みを長引かせます(Red Flag と Yellow Flag の違い)。

慢性パスへの介入の方向性

中枢性感作・慢性非特異的な痛みに対しては、考え方そのものを変えます。

  • 痛み神経教育(PNE / Explain Pain):痛み=組織損傷の量ではない、と脳の解釈を書き換える(Moseley & Butler)
  • 漸進的・段階的運動療法:安静ではなく、安全を確認しながら活動量を少しずつ戻す
  • 有酸素運動・認知行動的アプローチ:感作した神経系を落ち着かせる

ここで効くのは「患部への手技」ではなく、「脳の警戒を解く」関わりです。安静過信バイアス(痛い=動かしてはいけない)から抜け出すことが、慢性痛では決定的に重要になります。

まとめ

  • 痛みは「どこが痛いか」でなく「なぜ痛いか」で分ける
  • 侵害受容性/神経障害性/中枢性感作の3メカニズム
  • 経過3ヶ月で急性パスと慢性パスを分け、戦略を切り替える
  • 慢性パスでは睡眠・気分・破局的思考の評価が必須。安静でなく段階的運動と痛み教育へ

メカニズムを見極めたら、次は動作・方向性での分類です。→ 方向性・部位・荷重で分ける

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