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総論 Red Flag・安全性 シリーズ:Yellow Flag #1

Yellow Flag とは何か — 痛みを長引かせる心理社会的要因の見方

2026/6/12

Yellow Flag とは何か — 痛みを長引かせる心理社会的要因の見方

この記事で分かること

読了時間:約 5 分

  • Yellow Flag は「危険」ではなく、私たちが向き合うべき治療対象
  • 考え方・感情・行動・環境の4領域と、問診で現れる言葉のサイン
  • 新人がやりがちなNG対応3つと、明日からの向き合い方

組織は治っているのに、痛みが続く

Red Flag シリーズでは「治す前に除外する」という安全の関門を整理しました。この記事では、もう一つの旗の話をします。

臨床に出て1〜2年もすると、必ずこういう患者さんに出会います。画像でも所見でも大きな問題はない。組織の修復期間はとっくに過ぎている。それなのに、痛みが続いている。

真面目な新人ほど、ここで自分の技術を疑います。「自分の評価が間違っているのか」「手技が下手なのか」と。私もそうでした。けれど、このタイプの痛みの背後にあるのは、技術の問題ではなく Yellow Flag——痛みを長引かせる心理社会的要因であることが少なくありません。

Yellow Flag とは

Yellow Flag は、痛みが慢性化・長期化するリスクを高める心理社会的な要因を指す言葉です。1990年代後半にニュージーランドの急性腰痛ガイドラインで体系化された概念で、Red Flag(身体的な危険信号)と対になっています。

決定的に違うのは、その後の対応です。

  • Red Flag → 危険の除外。拭えなければ受診につなぐ(私たちの手を止める旗)
  • Yellow Flag → 危険ではない。私たちが向き合い、アプローチを調整する(私たちの仕事が始まる旗)

恐怖や不安は「異常」ではありません。痛みが続けば誰でも不安になります。Yellow Flag は患者さんを選別するためのものではなく、回復を妨げている要因に気づき、関わり方を変えるための視点です。

4つの領域で見る

領域代表的なサイン
考え方(認知)「痛み=身体が壊れている」という誤解、最悪の事態を想像し続ける(破局的思考)、「動くと悪化する」という信念(恐怖回避思考)
感情不安、気分の落ち込み、イライラ、「一生このままかも」という絶望感
行動過度な安静、痛む動きを徹底的に避ける、コルセット・サポーターへの強い依存、活動と休息の極端な波
環境(仕事・家族)仕事への不満や職場のストレス、家族の過保護な反応(全部代わりにやってしまう)、補償・労災の問題

きれいに分かれるものではなく、互いに強め合います。「動くと壊れる」という考えが恐怖を生み、恐怖が安静行動を生み、動かないことで体力と自信が落ち、ますます痛みに敏感になる——この悪循環が、組織の問題が治った後も痛みを駆動し続けるのです。

問診で現れる「言葉のサイン」

Yellow Flag は検査機器には映りません。患者さんの言葉に出ます。

  • 「怖くて曲げられないんです」(恐怖回避)
  • 「ヘルニアがあるから、もうダメなんですよね」(痛み=損傷の誤解・低い回復期待)
  • 「どんどん悪くなっていく気がして、夜も考えてしまう」(破局的思考)
  • 「仕事に戻れる気がしません」(回復期待の低下・職場要因)
  • 「家では全部家族がやってくれるので、ほとんど動きません」(過度な安静・環境要因)

私は問診でこういう言葉が出たら、評価メモの隅に書き留めておきます。**身体所見と同じ重さの「所見」**だからです。定量化したい場合は、恐怖回避思考なら FABQ、破局的思考なら PCS といった質問紙もあります(名前だけ覚えておけば、必要になったとき調べられます)。

新人がやりがちなNG対応3つ

私自身の失敗も込みで書きます。

① 不安を正論で否定する 「大丈夫ですよ、気にしすぎです」——本人にとって痛みも不安も現実です。否定された患者さんは「この人はわかってくれない」と口を閉じ、本当の情報が取れなくなります。

② 良かれと思って脅す説明をする 「骨盤がゆがんでいますね」「ここの組織が傷んでいます」。説明した本人は忘れても、患者さんはその言葉を何年も抱え続けます。不用意な一言が Yellow Flag を作ることを、説明する側は知っておく必要があります。

③ 安静を出しすぎる 痛がっているから、と活動をどんどん制限する。短期的には親切に見えて、恐怖回避の悪循環に加担しています。

私が新人の頃、関節の硬さばかり追いかけて、患者さんの「怖い」という言葉を素通りした失敗は修士の臨床記録Vol.1に、恐怖そのものが痛みを駆動していた症例はVol.8(恐怖という亡霊)に書きました。理論より先に、失敗から読んでもらってもかまいません。

明日からどう向き合うか

新人のうちは、これだけで十分です。

  1. 言葉のサインを所見として記録する——治そうとする前に、まず気づけること
  2. 痛みの仕組みを、安心につながる言葉で説明する——痛み=損傷ではないこと(痛みのメカニズム分類)を、患者さんの言葉で。説明の組み立ては患者さんへの説明の仕方に型があります
  3. 小さな成功体験を設計する——「動けた」「悪化しなかった」という事実の積み重ねが、どんな説得よりも恐怖を解きます
  4. 抱え込まない——気分の落ち込みが深い、生活全体が崩れているなど、心理・社会面の比重が大きいケースは、医師や心理職と連携する判断も私たちの仕事です

最後に:ラベルではなく、レンズ

ひとつだけ注意があります。Yellow Flag は「あの患者さんはメンタルの問題だから」とラベルを貼って治療を諦めるための道具ではありません

むしろ逆です。組織の問題だけを見ていたら説明のつかない痛みに、もう一枚のレンズを足して、私たちにできることを増やすための概念です。レンズが増えれば、「治らない患者さん」は減ります。

まとめと次の一歩

  • Yellow Flag は危険ではなく治療対象。Red Flag(受診へ)との役割の違いを押さえる
  • 考え方・感情・行動・環境の4領域で見て、問診の「言葉のサイン」を所見として記録する
  • 否定しない・脅さない・安静を出しすぎない。小さな成功体験が最良の薬

Red Flag の体系から復習したい方は総論へ。評価の組み立て全体を点検したい方は、評価ナビゲーター(無料)をどうぞ。