痛みを診る『5つの旗』— Red / Yellow / Orange / Blue / Black フラッグ完全マップ
2026/6/16
この記事で分かること
読了時間:約 4 分
- ✓ 旗は1色ではない。身体(Red)・本人の心(Yellow/Orange)・仕事と制度(Blue/Black)
- ✓ 5つの旗を「誰の問題か」「向き合うのか・つなぐのか」で一覧整理
- ✓ ラベルではなくレンズ。旗が増えるほど「診られる痛み」が増える
旗が、1色では足りなくなる日
Red Flagを覚えると、「危険を除外する」という最初の関門は通れるようになります。けれど臨床を続けると、Red Flag では説明のつかない痛みに必ず出会います。
画像も所見も大きな問題はない。それなのに痛みが続く、あるいは良くなったり悪くなったりを繰り返す。このとき必要になるのが、Red 以外の「旗」です。
痛みを長引かせたり、回復を妨げたりする要因は、身体の中だけにあるわけではありません。本人の考え方、感情、仕事、そして本人の外にある制度——それぞれに色のついた旗が割り当てられています。この記事は、その5色を一枚の地図にまとめたものです。
5つの旗の一覧
| 旗 | 何の問題か | 具体例 | 私たちの動き |
|---|---|---|---|
| 🔴 Red | 身体の重篤な疾患 | 腫瘍・感染・骨折・馬尾症候群・内臓関連痛 | 手を止めて受診・紹介につなぐ |
| 🟡 Yellow | 本人の心理(考え・感情・行動) | 「動くと壊れる」という恐怖回避、破局的思考、過度な安静 | 向き合う・関わり方を変える治療対象 |
| 🟠 Orange | 精神医学的なサイン | 臨床的なうつ、強い不安、依存、心的外傷 | 心理面の Red Flag。医師・心理職へつなぐ |
| 🔵 Blue | 仕事と健康についての本人の認識 | 「仕事が体に悪い」「もう復帰は無理」という思い込み、低い職務満足 | 認識に働きかける・期待を整える |
| ⚫ Black | 本人の外にある制度・環境 | 補償・労災の問題、職場の制度、復帰調整の難しさ、家族環境 | 本人だけでは変えにくい。多職種・環境調整 |
3つのまとまりで覚える
5色をバラバラに暗記する必要はありません。「誰の領域か」で3つにまとめると、頭に入ります。
- 身体 — Red。私たちが手を止め、医療につなぐ旗
- 本人の心 — Yellow と Orange。Yellow は「治療対象になる心理」、Orange は「私たちの手に余る精神医学的サイン」。同じ心の話でも、向き合うのか・つなぐのかが分かれます
- 仕事と制度 — Blue と Black。Blue は本人の主観(仕事への認識・思い込み)、Black は本人の外にある客観的な壁(制度・補償・職場)。主観か客観かが分かれ目です
歴史的には、もともと心理社会的な要因はまとめて Yellow Flag と呼ばれていました。その後「同じ心理社会でも、本人の認知・本人の精神状態・仕事の認識・制度の壁では対応がまるで違う」という理由から、Orange / Blue / Black へ枝分かれした経緯があります。だから色が違っても、根は地続きです。
どの順番で見るか
評価の流れの中では、旗を見る順番におおよその決まりがあります。
- まず Red を除外する。これは総論で書いたとおり、最上流のゲートです。安全が確認できて初めて、私たちの介入が始まります
- 介入しても良くならない、慢性化のにおいがする——そのときに Yellow を疑う。問診の言葉のサインを所見として拾います(Yellow Flag とは何か)
- 落ち込みや不安が「性格」や「一時的な反応」の範囲を超えていると感じたら、Orange を考える。これは私たちが治す対象ではなく、つなぐ対象です(Orange Flag とは)
- 痛みの背景に仕事が大きい、あるいは「戻れない理由」が制度側にある——そのときに Blue / Black を見る(Blue Flag / Black Flag)
順番には意味があります。心理や環境の旗にいきなり飛びつくと、見落としてはいけない身体の危険(Red)をまたいでしまうからです。
ラベルではなく、レンズ
最後に、Yellow Flag の記事でも書いた注意をもう一度。
旗は、患者さんに「この人はメンタル」「この人は制度の問題」とラベルを貼って、治療を諦めるための道具ではありません。逆です。身体だけを見ていたら説明のつかない痛みに、もう一枚のレンズを足して、私たちにできることを増やすための地図です。
レンズが増えるほど、「治らない患者さん」は減ります。5色そろえば、痛みの全体像がずっと立体的に見えてきます。
まとめと次の一歩
- 旗は身体(Red)だけではない。本人の心(Yellow/Orange)、仕事と制度(Blue/Black)にもある
- 「誰の問題か」「向き合うのか・つなぐのか」で対応が変わる
- 順番は Red の除外が最初。心理・環境の旗はその後に重ねる
各色の詳細は、それぞれの記事へ。評価の組み立て全体を点検したい方は、評価ナビゲーター(無料)をどうぞ。